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ネットでの名誉毀損 最高裁判決が相次ぐ
今年3月から4月にかけて、「インターネット上での名誉毀損・侮辱」に関する最高裁判決が続いている。
1つは、「ホームページ上での名誉毀損についても、新聞や雑誌での名誉毀損と同じ基準で、名誉毀損の成否を判断して良いか否か」という論点。最高裁は、これについて「ネットも雑誌も、全て同じ基準で判断すべき」という判決を下した。
http://www.webdice.jp/diary/detail/3888/
そして、4月に入って、立て続けに、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称:プロバイダ責任制限法)」、に関する最高裁判決が下されている。
前提知識として、この「プロバイダ責任制限法」の概要について説明すると、この法律は、インターネット上の掲示板やSNSのようなコミュニティサイトでの投稿や書き込みで、特定の人物や団体に対する名誉毀損的、侮辱的表現があった場合に、
■ その掲示板やサイトを管理している運営者(サービスプロバイダ)の賠償責任を制限すること(被害が生じていることを知っている場合等以外は賠償責任を負わない。)
■ 被害者が、「誰がこの書き込みを行ったか」を特定するために、サイトの運営者に対して投稿者の住所や氏名を開示するよう求めることが出来ること(「発信者情報開示請求」という。)。
の2点を定めた法律である。
ここで、便宜上「運営者」とか「プロバイダ」という曖昧な表現を使っているが、法律上は、「特定電気通信役務提供者」という言葉で表現されている。
この「特定電気通信役務提供者」には、掲示板やサイト運営者が含まれることは異論はないが、サービス提供者ではない、例えば、ドコモやKDDIといった、いわゆるインターネットに接続するための「経由プロバイダ」「接続業者」も、この法律における「特定電気通信役務提供者」に該当するか否か、という点については争いがあった。
まず、この点について、最高裁は、今月8日、「経由プロバイダも、プロバイダ責任制限法における特定電気通信役務提供者に該当する」と明言した。最高裁が、この論点について明言したのは初めてである。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/378143/
これによって、ネット上で被害を受けた被害者は、サイト運営者だけではなく、「キャリア」「経由プロバイダ」と言われるインターネット接続業者に対しても、「発信者情報開示請求」を行うことが出来ることが明白となった。
これは、被害者にとっては非常に大きな「前進」である。
なぜかというと、被害者が、掲示板やサイト運営者に対して「発信者情報開示請求」を行ったとしても、サイト運営者も、投稿者の「住所」や「氏名」までは把握していないのが通常であるから、サイト運営者から開示される「発信者情報」は、せいぜい「IPアドレス」どまり、になる。
しかし、IPアドレスを特定できても、そのIPアドレスから発信者の住所、氏名を特定しようと思ったら、どうしても接続業者に、接続情報を開示してもらわなければならない。
もし、接続業者が、プロバイダ責任制限法における「特定電気通信役務提供者」ではない、となると、被害者は、サイト運営者からIPアドレスを開示されただけで、結局、投稿者を特定できずに終わってしまうケースがほとんど、という結果になる(明らかな「泣き寝入り」のケースもあるだろう)。
8日に下された最高裁判決により、被害者はキャリアや接続業者に対しても発信者情報開示請求ができることが明らかになったので、被害者側としては、投稿者の特定がしやすくなった、と言える。
さらに、昨日(13日)、「もし経由プロバイダが、発信者情報開示請求に応じなかった場合に、被害者に賠償責任を負うか?」という論点に関して、最高裁が、プロバイダの賠償責任を「否定」する判断を下した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100413-00000079-mai-soci
上述のとおり、プロバイダ責任制限法は、被害者がプロバイダに対して投稿者の「情報開示」を請求できると定めているが、プロバイダは、投稿者から意見を聴取したり、書き込みの内容が「明らかな権利侵害にあたるか」を考え、「情報を開示しない」と判断することが出来る。
ただし、かかる「開示しない」というプロバイダの判断に「故意又は重過失」があった場合は、プロバイダは被害者に損害賠償をしなければならない、とも定められている。
本件の被害者は、KDDIが「発信者情報」を開示しなかったので、KDDIの対応には「故意又は重過失」があるとして、KDDIに対して損害賠償を請求していた。
第一審では、KDDIが勝訴、第二審では逆転して被害者が勝訴。逆転につぐ逆転の末、最高裁まで争いが持ち込まれ、再度の逆転により、KDDIが勝訴した、という事件である。
プロバイダが発信者の情報を開示するか否かの判断に、「故意又は重過失」があるか否かは、ケースバイケースの判断になるだろう。よって、本件では、KDDIが勝訴したが、他のケースにおいても同様とは限らない。
なお、本件において、最高裁は、KDDIの「賠償責任」は否定したものの、発信者情報を被害者に開示することはKDDIに求めている。
(ちなみに、この裁判は、私が弁護士になる前に、研修時代に同じアパートでルームシェアをして、ともに学び、遊んだ親友・星川信行弁護士がKDDI側の弁護士として担当した。逆転、逆転で弁護士としては大変な裁判だったと思うが、本当におつかれさまでした、と言いたい。)
以上、長くなったが、「プロバイダ責任制限法」や「ネット上の名誉毀損」に関連する最高裁の判断をまとめると、、、
1.名誉毀損が成立するか否かは「ネット」だからといって特別扱いはされない(新聞や雑誌と同様の基準で判断される)。
2.掲示板、SNS、ブログでの名誉毀損・侮辱について、「経由プロバイダ」や「接続業者」も賠償責任を負う可能性がある=被害者は、「接続業者」に対しても、投稿者の情報開示を求めることができる。
3.プロバイダが、投稿者の情報を開示しなかったとしても、プロバイダに損害賠償を求めることは余程のことがなければ認められない。
といった感じだろうか。
今後も、「ネットにおける表現やモラル」というのは、IT分野での大きなテーマになるだろうし、訴訟や法改正も増えてくるだろうから、動向を注目していきたい。
HPでの名誉毀損 最高裁が初判断
<産経新聞>
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100316-00000552-san-soci
事案自体は一般的にも有名な話だが、訴訟のポイントは、「ネット上の表現についても、新聞や雑誌等の既存媒体における表現と同様の基準で、名誉毀損が成立するかどうかを判断して良いのか?」である。
そもそも、「なぜ同様の基準で判断して良いか否かが問題になるのか?」というと、ネット上の表現は「そもそも信用性が低い(=名誉を傷つけられる度合いが小さい)」と考えられており、かつ、「ネットでバッシングされても、いくらでも反論可能だろう」という前提があるから、である。
しかし、最近の「ブログ炎上」等の状況を見ると、ネット上のバッシングだからといって新聞や雑誌より影響が小さい(相手に与える精神的苦痛が小さい)とは言い切れないし、反論しようにも反論できないケースも多々生じている。
特に、先日も「ネットにおけるモラルについて」という記事を投稿したが、SNS、掲示板、ブログ等の匿名性の高いコミュニティにおける、特定のターゲットに向けた侮辱的、名誉毀損的な表現については、より悪質性が高いといえよう。
「ネットと他のメディアを別異に捉えない」という今回の最高裁判断は基本的には妥当だろうと考える。


